マイナスの世界
小学校まで使っていた数は,小数や分数も含めて上の図のような $0$ 以上の数直線上に表せたよね。
中学校からはその世界が広がることになる。
それが,「 $0$ より左の世界」=「マイナスの世界」。
実は,今までかかれていなかった0の左側には,$-1$,$-2$,…というように数が続いているんだ。
ここから詳しく説明していくけど,数直線等を使って「理解する」ことと,作業のように「計算できる」こと,どちらも大事だからね。
数の種類
$\boldsymbol{+}$:正の符号,プラス
$\boldsymbol{-}$:負の符号,マイナス
正の数:$0$ より大きい数
負の数:$0$ より小さい数
「マイナスの世界」を考える前に,数の種類について触れておくね。
小学校までに習った数といえば,整数,小数,分数が浮かぶと思うけど,実は,数の種類でいうと「整数」だけなんだ。
小数と分数は,あくまで数の表し方,難しく言うと表記法の1つでしかないってこと。
例えば,「 $2=2.0= \displaystyle \frac{4}{2}$ 」というように,整数は小数,分数で表すことができるから,今のところは見た目の違いだと思ってほしい。
中学校からは数の種類が増えるんだけど,ちょっとややこしいのが「数」の読み方。
小学校までは「かず」って読んでたと思うんだけど,中学校からは「かず」というと「数字」や「量」のことで,数の種類を考えるときは,その集合を意識して「すう」と読むようになる。
本題に戻りつつ追加で説明していくね。
まず,数直線上の数は「 $0$ より小さい数=負の数(ふのすう)」,「 $0$ 」,「 $0$ より大きい数=正の数(せいのすう)」という3つの数(すう)に分けることができる。
負の数は,必ず「負の符号= $-$ (マイナス)」をつけて表すんだけど,正の数に「正の符号= $+$ (プラス)」をつけるかどうかは自由。
例1)
- 負の数:$-5$,$\displaystyle -\frac{5}{2}$,$-1.5$
- $0$ :$0$ のみ
- 正の数:$1.5$,$\displaystyle \frac{5}{2}$,$5$
※「 $+$ 」をつけて表すと:$+1.5$,$\displaystyle +\frac{5}{2}$,$+5$
このうち,「負の数」が新しい「マイナスの世界」ということになる。
「負の数」があると,今まで「 $1,2, \cdots$ 」というように $0$ からどれだ大きいかだけを考えていたのが,逆に「 $-1,-2, \cdots$ 」というように $0$ からどれだけ小さいかも考えられるようになるんだ。
ただ,負の数の考え方が全く新しいものかというとそうではなくて,生活の中でも使われている場面はあるんだよ。
例えば,天気予報で気温が「 $-3℃$ 」っていうのを見たことがあるよね?
これは,$0℃$ よりも $3 ℃$ 低いことを表しているんだ。
つまり,$0$ よりも□小さい数を負の数 $-□$ と表すということ。
整数・自然数
【定義】
整数: $0$ とそれに $1$ を足すか引くかしてできる数
自然数:正の整数
今度は「整数」について考えていくね。
整数の定義は「 $0$ に $1$ を足すか引くかしてできる数」なんだけど,「 $0,1,2, \cdots$ 」というイメージだよね?
でも実際には $0$ より左にも世界が広がっているから,「 $\cdots -2,-1,0,1,2, \cdots$ 」となる。
整数を正の数・負の数とあわせて考えると「負の整数」,「 $0$」,「正の整数」の3つに分けることができて,特に,正の整数を「自然数」というんだ。
例2)
- 負の整数: $-2$,$-1$
- $0$ : $0$ のみ
- 正の整数: $1$,$2$
「足す」と「プラス」,「引く」と「マイナス」の違い
正の数,負の数は数に「 $+$ 」,「 $-$ 」をつけて表すんだよ,と言われて真っ先に疑問に思うのは,足し算引き算と何が違うの?ってことじゃないかな?
実は,これらの区別はないんだ。
そもそも「 $-3$ 」だけを見て「引く $3$ 」なのか,「マイナス $3$ 」なのか判断できないしね。
逆に区別がなくて大丈夫なの?って思うかも知れないけど,それはこのあと負の数を使って計算していくから,少しずつ理解していってほしい。
比喩だけで覚えるな!
ここで,数学を学ぶときの注意事項をひとつ。
数学って理解するのが大変だから,先生や教材によっていろいろな比喩が使われているよね?
ただ,それはあくまで理解しやすくするために「例えた」だけだから,すべてをその比喩で考えることはできないんだ。
人生を山登りに例えることがあるけど,人生のすべてを例えられるわけじゃないよね?
イン数でも,数直線や図を使って視覚的に分かりやすく説明することはあるけど,それがすべてに当てはまるわけじゃない。
比喩っていうのは,ほんの一部を理解するためだけに使われているんだ。
数学においては,覚えるべきは公理と定義のみ。
何をどう理解しようとも,最終的にはこの公理と定義に沿って考えたり説明したりできるようにならないとダメなんだ。
正負の数と四則演算
【定義】
点:数直線上の場所
座標:数直線上の点に対応する数
原点:数直線で,$0$ に対応する点
正の向き:数直線の右の方向
負の向き:数直線の左の方向
絶対値:数直線上で,ある数に対応する点と原点との距離
加法:足し算
和:加法の結果
減法:引き算
差:減法の結果
乗法:かけ算
積:乗法の結果
除法:わり算
商:除法の結果
$\boldsymbol{\pm}$ (プラスマイナス):$+$ と $-$ を合わせたもの
※ $\pm$ はどちらの符号も考えられるときに使う。
ここからは負の数を含んだ計算について考えていくね。
まず,中学校になるとそれぞれの呼び方が変わるから注意。
小学校 | 足し算 | 引き算 | 掛け算 | 割り算 |
中学校以降 | 加法(かほう) | 減法(げんぽう) | 乗法(じょうほう) | 除法(じょほう) |
演算の結果 | 和(わ) | 差(さ) | 積(せき) | 商(しょう) |
また,4つの演算(加法,減法,乗法,除法)をまとめて四則演算というんだ。
そして,四則演算を考える上で大事になるのが絶対値。
絶対値っていうのは,数直線上である数に対応する点と原点との距離のことで,そのある数を絶対値記号( $| \ \ |$ )で囲って表す。
例3)
- $| 3 |=3$:$3$ の絶対値は $3$ = 原点と座標が $3$ の点の距離は $3$
- $| -4 |=4$:$-4$ の絶対値は $4$ = 原点と座標が $-4$ の点の距離は $4$
- $| 0 |=0$:$0$ の絶対値は $0$ = 原点と原点の距離は $0$
絶対値は距離を表すから,結果的にすべて正の数になるんだ。
負の数を使う計算のイメージ
四則演算を考える前に,まずは負の数に慣れよう。
小学校の計算は,$1+3=4$ や $7-2=5$ のように,$0$ 以上の数だけで考えていたよね。
すごろくのように,$1+3$ は,$1$ というマスから $3$ 進むと $4$ というマス,$7-2$ は,$7$ というマスから $2$ 戻ると $5$ というマス,というように考えていた人も多いんじゃないかな。
ここからはすごろくの代わりに数直線で考えよう。
例えば,$1+3=4$ は,座標が $1$ の点から正の向きに $3$ 移動した点の座標は $4$,$7-2=5$ は,座標が $7$ の点から負の向きに $2$ 移動した点の座標は $5$,ということができる。
加法が正の向きへの移動,減法が負の向きへの移動だね。
ここで,小学校では習わなかった負の数を使う計算を考えてみよう。
$0-3$ って小学校ではできないことになっていたよね?
でも,$0$ より左の世界があると,座標が $0$ の点から負の向きに $3$ 移動した点の座標は $-3$ ,というように負の数を使って表せるんだ。
この座標が $-3$ の点からさらに負の向きに$2$ 移動すると $-3-2=-5$,正の向きに $2$ 移動すると $-3+2=-1$ となる。
分かりづらかったら数直線を見ながら考えてね。
他にも,$6-10=6-6-4=0-4=-4$ や,$-3+11=-3+3+8=0+8=8$ というように,原点をまたいで移動することもできるよ。
乗法,除法はというと,加法,減法とは移動のしかたが変わる。
例えば,$2 \times 3=6$ は,座標が $2$ の点に対して絶対値が $3$ 倍の点の座標は $6$,$12 \div 3=12 \times \frac{1}{3} =4$ は,座標が $12$ の点に対して絶対値が $\frac{1}{3}$ 倍の点の座標は $4$,ということができる。
乗法,除法に負の数が含まれていても,$-3 \times 5=-15$ というように,座標が $-3$ の点に対して絶対値が $5$ 倍の点の座標は $-15$ というように考えればいい。
少しずつ計算が「位置と移動」に見えるようになってきたかな?
今までは $0$ 以上で考えていたものが負の数まで広がると計算も結果ももっと自由になる。
負の数を使いこなすために,ちょっとずつ慣れていこう。
加法・減法
【定義】
項:加法の式で,加法の記号 $+$ で結ばれたもの
正の項:正の数の項
負の項:負の数の項
ここからは,「正の数」,「負の数」を意識した計算を考えていくね。
例として,上で出てきた加法,減法を,すべて正の数,負の数を使って表してみるね。
- $1+3=(+1)+(+3)=(+1)-(-3)=4$
- $7-2=(+7)+(-2)=(+7)-(+2)=5$
- $0-3=0+(-3)=0-(+3)=-3$
- $-3-2=(-3)+(-2)=(-3)-(+2)=-5$
- $-3+2=(-3)+(+2)=(-3)-(-2)=-1$
- $6-10=(+6)+(-10)=(+6)-(+10)=-4$
- $-3+11=(-3)+(+11)=(-3)-(-11)=8$
ここで使っている”かっこ”は今までのように先に計算するという意味ではなく,正負の数を区別するために使われている点に注意。
$(+1)+(+3)$ を $+1++3$ と書くと,符号が $++$ というように続いてしまうからね。
これからは,かっこを見たら「かたまり」だと思って,$(+1)+(+3)$ は $+1$ と $+3$ を足す,と考えよう。
ちなみに,加法だけで表された式で $+$ で結ばれたものを項といって,正の数の項なら正の項,負の数の項なら負の項という。
さて,上の例だけど,かっこがなかったときに加えて,移動する向きに注意する必要がある。
$1+3=(+1)+(+3)=(+1)-(-3)=4$ を例にすると,
- $1+3=4$:座標が $1$ の点から正の向きに $3$ 移動した点の座標は $4$
- $(+1)+(+3)=4$:座標が $+1$ の点から正の向きに対してそのままの向きに $3$ 移動した点の座標は $4$
- $(+1)-(-3)=4$:座標が $+1$ の点から負の向きに対して逆向きに $3$ 移動した点の座標は $4$
というように,どれも同じことを表しているんだ。
つまり,かっこを使った加法,減法の式では,かっこの間にある符号を「 $+$ 」=「正の向き」,「 $-$ 」=「負の向き」,数字の前にある符号を「 $+$ 」=「そのままの向き」,「 $-$ 」=「逆向き」と考えるってこと。
さらに,具体的な数字の計算はどうなるかというと,実は2パターンしかない。
- 加法・減法の計算パターン1 同符号の2数の和
例えば,$(+1)+(+3)$ は,正の数から正の向きに移動することになるから,$(+1)+(+3)=+(1+3)=+4$ というように2つの数の絶対値の和に $+$ をつける。
同じように,$(-3)+(-2)$ は,負の数から負の向きに移動することになるから,$(-3)+(-2)=-(3+2)=-5$ というように2つの数の絶対値の和に $-$ をつける。 - 加法・減法の計算パターン2 異符号の2数の和
例えば,$(+7)+(-2)$ は,正の数から負の向きに移動することになるから,$(+7)+(-2)=+(7-2)=+5$ というように2つの数の絶対値の差に絶対値の大きい $+7$ の符号 $+$ をつける。
同じように,$(-3)+(+2)$ は,負の数から正の向きに移動することになるから,$(-3)+(+2)=-(3-2)=-1$ というように2つの数の絶対値の差に絶対値の大きい $-3$ の符号 $-$ をつける。
減法は加法に直せば上のどちらかのパターンで計算できるよ。
上の他の例を見ながら確認してみてね。
ここまでの話をまとめると以下の通り。
式の変形
- $( \pm a)+(+b)= \pm a+b$
- $( \pm a)+(-b)= \pm a-b$
- $( \pm a)-(+b)=( \pm a)+(-b)= \pm a-b$
- $( \pm a)-(-b)= ( \pm a)+(+b)= \pm a+b$
計算方法
- 同符号の2数の和は,絶対値の和に,共通の符号をつける。
- 異符号の2数の和は,絶対値の大きい方から小さい方を引いた差に,絶対値の大きい方の符号をつける。
- 加法と減法の混じった式は,加法だけの式に直すことができる。
- 異符号で絶対値の等しい2数の和は0。
乗法・除法
- $2 \times 3=(+2) \times (+3)=6$
- $12 \div 3=(+12) \div (+3)=(+12) \times (+ \frac{1}{3} )=4$
- $-3 \times 5=(-3) \times (+5)=-15$
ここまでは数直線を使って「絶対値が(かける数)倍の点の座標」で理解できると思う。
負の数を含む乗法,除法で唯一覚えてもらいたいのは,「 $(-1)$ をかける(わる)」=「逆を向く」(原点に関して対称移動する)ということ。
例えば,
- $2 \times (-3)=(+2) \times (-1) \times 3=-2 \times 3=-6$
- $12 \div (-3)=(+12) \times (- \frac{1}{3} )=(+12) \times (-1) \times \frac{1}{3} =-12 \times \frac{1}{3} =-4$
- $-3 \times (-5)=(-3) \times (-5)=(-3) \times (-1) \times 5=3 \times 5=15$
$2 \times (-3)$ は $(+2) \times (-1) \times 3$ と直せるので,座標が $2$ の点から逆を向いた点の座標は $-2$ で,その絶対値が $3$ 倍の点の座標は $-6$,$-3 \times (-5)$ は $(-3) \times (-1) \times 5$ と直せるので,座標が $-3$ の点から逆を向いた点の座標は $3$ で,その絶対値が $5$ 倍の点の座標は $15$ となる。
$(-1) \times (-1)=1$ というのは定義だから理解するようなものではないんだけど, $(-1)$ をかけると逆を向く,という考えはずっと使えるからぜひ覚えておこう。
ここまでの話をまとめると以下の通り。
計算方法
- 同符号の2数の積は,絶対値の積に正の符号をつける。
- 異符号の2数の積は,絶対値の積に負の符号をつける。
- 同符号の2数の商は,絶対値の商に正の符号をつける。
- 異符号の2数の商は,絶対値の商に負の符号をつける。
- 正,負の数でわることは,その数の逆数をかけることと同じ。
- いくつかの数の積について
$( 積の符号 ) = \begin{cases} + & ( 負の数が偶数個 ) \\- & ( 負の数が奇数個 ) \end{cases}$
$( 積の絶対値 ) = ( かけ合わせる数の絶対値の積 )$
交換法則・結合法則・分配法則
【定理】
加法の交換法則
$a+b=b+a$
乗法の交換法則
$a \times b=b \times a$
加法の結合法則
$(a+b)+c=a+(b+c)$
乗法の結合法則
$( a \times b ) \times c = a \times ( b \times c )$
分配法則
$a \times ( b + c ) = a \times b + a \times c$
$( b + c ) \times a = b \times a + c \times a$
これは小学校の復習になるけど,加法と乗法では交換法則と結合法則が成り立つ。
交換法則は計算する順番を入れ替えても結果が変わらないという法則で,結合法則は3つ以上の数を計算するときにどの2数から計算しても結果が変わらないという法則。
さらに,減法は加法,除法は乗法に直せばこれらの法則が成り立つからね。
分配法則は小学校で習ったのと同じ。
ただ,乗法の部分が除法だったとしても,それを乗法に直せば法則が成り立つ点には注意。
数の大小関係
【定義】不等号
$a \boldsymbol{<} b$ ( $a$ 小なり $b$ ):$a$ は $b$ より小さい(未満)
$a \boldsymbol{>} b$ ( $a$ 大なり $b$ ):$a$ は $b$ より大きい
$a \boldsymbol{ \leqq } b$ ( $a$ 小なりイコール $b$ ):$a$ は $b$ 以下
$a \boldsymbol{ \geqq } b$ ( $a$ 大なりイコール $b$ ):$a$ は $b$ 以上
数の大小を表す記号を不等号といって,$<$,$>$,$\leqq$,$\geqq$ の4種類がある。
使い方は等号( $=$ )とほぼ同じだけど,向きがあるから注意。
あとは,$=$ の有無で意味が変わるから例を挙げとくね。
- $2<$ □:□に入る数 $=3, 5.5, 100 \cdots$ ※ $2$ は含まれない
- $2 \leqq$ □:□に入る数 $=2, 7.8, 97 \cdots$ ※ $2$ は含まれる
第3講のまとめ
マイナスの世界,どうだったかな?
生活の中でも見え隠れするからなんとなく知っていたかもしれないけど,ここではっきりと説明できるくらい理解しておいてほしいな。
数学の世界はまだまだ広がっていくけど,それを学ぶ前に,第4講は大事な大事な基礎計算!