【インスタント中高数学】第2講 数学において「正しい」とは何か?【集合と論証】

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非の打ち所がない正しさ

いきなりだけど,「お金持ちなら幸せ」というのは正しいと思う?

これは人によって正しい,間違っているが分かれると思うんだけど,数学的に言えば間違っているってはっきり言える。

(本当は「お金持ち」と「幸せ」の定義をしなきゃいけないんだけど…)

なぜなら,数学的に考えると,「お金持ちの人全員」が「幸せ」じゃないと正しいとは言えないから。

つまり,「お金持ち」だけど「幸せじゃない」人が一人でもいれば,間違っているといえるんだ。

この講では,数学における「お金持ちなら幸せ」というような事柄=「命題」,「お金持ち」のようなグループ=「集合」,「事柄が正しい,間違っている」というような判断=「真偽」などについて考えていく。

似たような記号とか,日常的に使うんだけど数学的な定義だとちょっと意味が違う言葉がたくさん出てくるから要注意!

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集合

【定義】

集合:範囲がはっきりしたものの集まり

要素:集合を構成している1つ1つのもの

$x$ が集合 $A$ に属する( $x \in A$ ):$x$ が集合 $A$ の要素であること

$x$ が集合 $A$ に属さない( $x \notin A$ ):$x$ が集合 $A$ の要素でないこと

空集合( $\varnothing$ ):要素がまったくない集合

2つの条件 $p$,$q$ について,

$p$ かつ $q$:$p$ と $q$ のどちらも満たす条件

$p$ または $q$:$p$ と $q$ の少なくとも一方を満たす条件

「お金持ち」というグループを集合だとすると,「お金持ちのAさん」はその要素になって,これを「(Aさん)は(お金持ち)という集合に属する」=「(Aさん) $\in$ (お金持ち)」と表す。

さらに,「お金持ちでないBさん」がいたとすると,「Bさん」は「お金持ち」ではないので,「(Bさん)は(お金持ち)という集合に属さない」=「(Bさん) $\notin$ (お金持ち)」と表す。

あとは,「1京円持っている人」が1人もいないとすると要素が1つもないから,「(1京円持っている)という集合は空集合 」=「(1京円持っている) = $\varnothing$ 」となる。

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集合の表し方

集合の表し方には,「要素を1つ1つ書き並べる」方法と,「要素の満たす条件を示す」方法がある。

要素を1つ1つ書き並べる

  (集合) = { 要素1,要素2,要素3, …… ,要素n }

要素の満たす条件を示す

  (集合) = { (要素の代表) | (要素の満たす条件) }

例えば,お金持ちの人がAさん,Bさん,Cさんの3人いた場合,「お金持ち」という集合を要素を1つ1つ書き並べて表すなら,

(お金持ち) = { Aさん,Bさん,Cさん }

要素の満たす条件を示して表すなら,

(お金持ち) = {人|お金を1億円以上持っている }

というようになる。

当然,「お金持ち」が3人しかいないわけがないから,この場合は要素の満たす条件を示す方法の方が現実的だよね。

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集合と集合の関係①

【定義】

$A$ は $B$ の部分集合( $A \subset B$ ):集合 $A$,$B$ において,$x \in A$ ならば $x \in B$ が成り立つこと

※このとき,$A$ は $B$ に含まれる,または,$B$ は $A$ を含むという。

※$A$ 自身は $A$ の部分集合である。($A \subset A$)

※空集合はすべての集合の部分集合である。

$A$ と $B$ が等しい( $A=B$ ):$A$,$B$ の要素が全く一致していること

※$A=B$ $\Leftrightarrow$ $A \subset B$ かつ $A \supset B$

$A$ と $B$ が互いに素:$A$,$B$ の要素が全く一致していないこと

今度は集合と集合の関係について。

この集合は別の集合に含まれる,というような関係を「包含関係(ほうがんかんけい)」という。

例えば,「1億円持っている人」は当然「100万円持っている人」でもあるから,「(1億円持っている)という集合は(100万円持っている)という集合の部分集合」=「(1億円持っている) $\subset$ (100万円持っている)」と表すことができる。

あと,間違えやすいのが,「1万円持っている」という集合と,「100円玉を100枚持っている」という集合はどちらも1万円持っているわけだから等しいように思えるけど,「1万円持っている人」が「100円玉を100枚持っている」とは限らないから,等しくはない。

この場合は「(100円玉を100枚持っている) $\subset$ (1万円を持っている)」ということになるね。

数学では,こういった「集合の大小」を見抜く力がとても重要なんだ。

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集合と集合の関係②

【定義】

共通部分( $A \cap B$ ):$A$ と $B$ のどちらにも属する要素全体の集合

共通部分( $A \cap B \cap C$ ):$A$,$B$,$C$ のどれにも属する要素全体の集合

和集合( $A \cup B$ ):$A$ と $B$ の少なくとも一方に属する要素全体の集合

和集合( $A \cup B \cup C$ ):$A$,$B$,$C$ の少なくとも1つに属する要素全体の集合

補集合( $\overline{A}$ ):全体集合 $U$ の部分集合 $A$ に対して,$A$ に属さない $U$ の要素全体の集合

※$A \cap \overline{A} = \varnothing$,$A \cup \overline{A} =U$,$\overline{\overline{A}} =A$

※$A \subset B$ ならば $\overline{A} \supset \overline{B}$

まずは,感覚的に間違えやすい言葉「または」についてちょっと解説。

日常で「AまたはB」というと,「A,Bのどちらか一方」というイメージが強いんじゃ?

数学では,というか,日本語の意味としても,「AまたはB」=「Aだけ,Bだけ,AとB両方のどれか」というのが正解。

つまり,「(お金持ち)または(幸せ)」という集合は,「お金持ちだけど幸せじゃない人,幸せだけどお金持ちではない人,お金持ちだし幸せな人」の集合になるということ。

そして,こういう集合を和集合といって,「(お金持ち) $\cup$ (幸せ)」と表すんだ。

定義では「または」が「少なくとも一方」という表現になっているけど,同じ意味だよ。

あとは,「お金持ちだし幸せな人」の集合を共通部分といって,「(お金持ち) $\cap$ (幸せ)」と表す。

ここでもう一つ注意したいのが,「お金持ち以外の人」をどう表現するかなんけど,これを「貧乏な人」としてしまうと,数学的に間違える可能性が高い。

なぜなら,すべての人をグループに分けるとき,「お金持ち」と「貧乏」の2つには分けられないから。

感覚的に考えても,「お金持ち」=「お金をたくさん持っている人」,「貧乏」=「お金をほとんど持っていない人」と考えると,このどちらでもない人がいるというのは簡単に想像できるでしょ?

だから数学では,「お金持ち以外の人」は「お金もちじゃない人」というように,否定した言葉の集合で考えて,「(お金持ち)という集合の補集合は(お金もちじゃない)」=「 $\overline{(お金持ち)}$ = (お金もちじゃない)」と表す。

同じように,「貧乏」の補集合は「貧乏じゃない」だからね。

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ド・モルガンの法則

【定理】ド・モルガンの法則

$\overline{A \cup B}=\overline{A} \cap \overline{B}$

$\overline{A \cap B}=\overline{A} \cup \overline{B}$

初登場の定理はこちら「ド・モルガンの法則」。

非常にシンプルだけど,このあと出てくる命題の真偽について考えるときにも使えるんだ。

「AとBの和集合の補集合は,Aの補集合とBの補集合の共通部分」って言葉で言われてもピンとこないとは思うけどね。

使い所がきたらまた詳しく説明するよ。

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命題と真偽

【定義】

命題:文や式で表された事柄で,真偽が定まるもの

仮定,結論:2つの条件 $p$,$q$ について,「 $p$ ならば $q$ 」=「 $p \Rightarrow q$ 」の形で表される命題では,$p$ を仮定,$q$ を結論という。

※条件 $p$,$q$ を満たすもの全体の集合をそれぞれ $P$,$Q$ とすると

「$p \Rightarrow q$ が真」 $\Leftrightarrow$ $P \subset Q$

「$p \Leftrightarrow q$ が真」 $\Leftrightarrow$ $P=Q$

反例:$p \Rightarrow q$ が偽であるとき,$P$ の中にある条件 $q$ を満たさない要素

※一般に,「命題が真であることを証明する」ことを「命題を証明する」という。

※$p \Rightarrow q$ が偽であるとは,反例が少なくとも1つあるということ。

さあ,いよいよやってきたね,命題と真偽。

数学において「正しい」とはどういうことか,しっかり理解してもらいたい。

まずは確認だけど,この講の最初に挙げた命題「お金持ちなら幸せ」は「(お金持ち) $\Rightarrow$ (幸せ)」と表すことができて,「お金持ち」を仮定,「幸せ」を結論という。

そして,条件と集合を区別するために「お金持ち」,「幸せ」という条件に対して,「お金持ちの人全員」,「幸せな人全員」を集合とする。

では真偽を調べていくけど,

「(お金持ち) $\Rightarrow$ (幸せ) が真」

というのは,

「(お金持ちの人全員) $\subset$ (幸せな人全員)」

と同じこと。

だから,2つの集合がこういう関係かかどうか調べたいんだけど,「お金持ちの人全員」に「幸せ」かどうか聞くのは現実的じゃないよね?

だから,「反例」を使う。

反例とは,仮定には当てはまるけど,結論には当てはまらない例。

今回の場合は「お金持ちだけど幸せじゃない人」。

この反例が1つでも見つかれば,「お金持ちの人全員」が「幸せな人全員」の部分集合じゃないということが分かるからね。

そして,自分の知り合いに「お金持ちだけど幸せじゃない人」がいるから,結果的にこの命題は偽になる。

さて,数学において正しいとはどういうことか分かってもえらえたかな?

今回は命題が文章だったから真偽の判定に反例を使ったけど,数学の場合はいろいろな方法があるから,また紹介するね。

※ちなみに,この「お金持ちなら幸せ」という命題について考える場合,本当は「お金持ち」と「幸せ」の定義を先に決めなきゃいけないからね!

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必要条件と十分条件

【定義】

十分条件,必要条件,必要十分条件

2つの条件 $p$,$q$ において

$p \Rightarrow q$ が真であるとき

$p$ は $q$ であるための十分条件である。

$q$ は $p$ であるための必要条件である。

$p \Rightarrow q$ と $q \Rightarrow p$ がともに真( $p \Leftrightarrow q$ )であるとき

$p$ ( $q$ )は $q$ ( $p$ )であるための必要十分条件である。

※このとき $p$ と $q$ は互いに同値であるという。

ここからは条件と命題についてもう少し深掘りしていくね。

命題の真偽が判定できたら,使われた条件をいくつかの種類に分けることができる。

例えば,「1億円持っているならば100万円持っている」は真だよね?

このとき,「1億円持っている」という条件は十分条件,「100万円持っている」という条件は必要条件ということができる。

正直,この「十分」,「必要」については,付け加える言葉によっていくらでも勘違いできてしまうからやっかい。

この例で言えば,「100万円持ってるって言いたければ,1億円持っていたら”十分”だよね」,「1億円持ってるって言いたければ,最低でも100万円は持っている”必要”があるよね」という風に理解はできる。

でも,命題が変わったときに同じような文脈が使えるかわからないからね。

だからひとまず「(十分条件) $\Rightarrow$ (必要条件):真」,「(十分条件を満たすもの全体の集合) $\subset$ (必要条件を満たすもの全体の集合)」という定形で覚えて,徐々に説明できるようにしていこう。

次に,「1辺の長さが2の正方形ならば面積が4の正方形」と「面積が4の正方形ならば1辺の長さが2の正方形」だけど,これはどちらも真だよね?

こうやって仮定と結論を入れ替えても真になるとき,2つの条件「1辺の長さが2の正方形」,「面積が4の正方形」はそれぞれ必要十分条件で,2つの条件を互いに同値であるという。

この「同値」が数学においては重要なんだけど,それはまたおいおい。

最後に「お金持ちなら幸せ」,「幸せならお金持ち」だけど,これがともに偽だとすると,2つの条件「お金持ち」,「幸せ」は必要条件でも十分条件でもないということになる。

ここまでをまとめると,

条件 $p$,$q$ を満たすもの全体の集合をそれぞれ $P$,$Q$ とすると

「$p \Rightarrow q$ が真」 $\Leftrightarrow$ $P \subset Q$ $\Leftrightarrow$ 「$p$ は $q$ の十分条件」かつ「$q$ は $p$ の必要条件」

「$p \Leftrightarrow q$ が真」 $\Leftrightarrow$ $P=Q$ $\Leftrightarrow$ 「$p$ ( $q$ )は $q$ ( $p$ )であるための必要十分条件」 $\Leftrightarrow$ 「$p$ と $q$ は互いに同値」

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命題の逆・裏・待遇と証明法

【定義】

否定:条件 $p$ の否定( $p$ でない,という条件)を $\overline{p}$ で表す。

※$\overline{\overline{p}} \Leftrightarrow p$

※$\overline{p \ かつ \ q}$ $\Leftrightarrow$ $\overline{p} \ または \ \overline{q}$

※$\overline{p \ または \ q}$ $\Leftrightarrow$ $\overline{p} \ かつ \ \overline{q}$

逆,裏,待遇

命題 $p \Rightarrow q$ に対し

の命題:$q \Rightarrow p$

の命題:$\overline{p} \Rightarrow \overline{q}$

対偶の命題:$\overline{q} \Rightarrow \overline{p}$

※命題の真偽とその対偶の真偽は一致する,つまり,命題とその対偶は同値だが,命題の真偽とその逆・裏の真偽は必ずしも一致しない。ただし,逆の真偽と裏の真偽は一致する。

命題を扱う上で覚えておいてほしいのが逆・裏・対偶。

これらは,元の命題「お金持ちなら幸せ」に対して,

  • 逆「幸せならお金持ち」:仮定と結論を入れ替える
  • 裏「お金持ちでないなら幸せでない」:仮定と結論を否定する
  • 対偶「幸せでないならお金持ちでない」:仮定と結論を入れ替えて否定する

というようになる。

言葉遊びのようにも聞こえるけど,論理的に考えるときにとても重要。

例えば,元の命題とその対偶の真偽は一致する,とか,元の命題とその逆がともに真なら元の命題の2つの条件は同値になる,とか,元の命題を単純に見ただけでは気づけないことが多くあるからね。

さて,ここまでの内容を踏まえた上で,証明の方法を一気に紹介していくよ。

ちなみに,命題が偽であることを証明することはあまりないから,「命題を証明する」といわれたら「命題が真であることを証明する」と受け取ってほしいのと,「真である」ということを「成立する」ということもあるから注意。

証明方法の大まかな分類

  • 直接証明法(演繹):仮定から順に推論を進め,結論を導く証明方法
  • 間接証明法:仮定から間接的に結論を導く証明法

具体的な証明方法の例

条件 $p$,$q$,$r$,$s$ を満たすもの全体の集合をそれぞれ $P$,$Q$,$R$,$S$ とする。

  • 対偶法:命題「 $p \Rightarrow q$ 」を証明するために,同値な対偶「 $\overline{q} \Rightarrow \overline{p}$ 」を証明する方法
  • 背理法:命題「 $p \Rightarrow q$ 」を証明するために,命題が偽だと仮定して,矛盾を導くことによって仮定が誤り,つまり,命題が真であると示す方法
  • 反例を用いる方法:命題「 $p \Rightarrow q$ 」が偽であることを示すために「 $x \in P$ かつ $x \notin Q$ 」となる反例 $x$ を1つ挙げる方法
  • 同一法:命題「 $p \Rightarrow q$ 」が真,かつ,$Q$ の要素がただひとつならば,その逆「 $q \Rightarrow p$ 」も真である,ということを利用する方法
  • 転換法:仮定を満たすものすべてが互いに素な集合 $P$,$Q$ に分けられ,$R$,$S$ が互いに素な集合のとき,「 $p \Rightarrow r$ 」かつ「 $q \Rightarrow s$ 」が真ならば,それらの逆「 $r \Rightarrow p$ 」かつ「 $s \Rightarrow q$ 」も真である,ということを利用する方法
  • ディリクレの箱入れ原理(部屋割り論法,鳩の巣原理):$n>m$ のとき,$n$ 個の物を $m$ 個の箱に入れると,2個以上入っている箱が少なくとも1個ある,ということを利用する方法
  • 数学的帰納法:※数列の講で紹介

こんなにあるのかと思うかも知れないけど,中高数学では普通の演繹,超限定的な背理法,対偶法,数列という単元での数学的帰納法くらいしか使ってる実感はないと思うよ。

数学をやるからには証明する楽しさも味わってほしいところなんだけどね。

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第2講のまとめ

中高数学で習う事柄は100%証明ができる。

学校で教えてるんだから当たり前じゃんって感じるかも知れないけど,他の教科じゃそうはいかないんだよ?

この完璧なまでの美しさを実感するために,見極める力,証明する力を磨いてほしいと思う。

2講連続で堅苦しくなっちゃったけど,次講からは中高数学の基礎になる計算が始まるからお楽しみに!

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